「憲法9条のおかげで戦後日本は平和国家になったという護憲法の主張は欺瞞~井上達夫東大大学院教授 5月3日毎日新聞オピニオン」
いささか旧聞だが、5月3日付毎日新聞で井上達夫東京大学大学院教授と木村草太首都大学東京教授が対談。レベルの高い記事で読み応えがある。
木村草太氏が護憲派で、井上達夫氏が批判派だ。木村草太氏の護憲論は、護憲派延長線上の論旨だが、法哲学者の井上達夫教授は手厳しく論破している。
井上教授の主張の骨子
① 憲法9条1項と2項をそのまま読めば、一切の武力行使を禁止している
② したがって護憲派の個別的自衛権の枠内なら自衛隊と日米安保は許されるというのは詭弁だ
③ 自衛隊は世界有数の武装組織であり、米国は世界最強の戦力だ。
④ 日本が侵略された時に日米が共同で戦うわけで、これが交戦権の行使でないというのもありえない
さらに井上教授の主張
⑤ 護憲派は、60年安保闘争までは自衛隊反対、安保廃止と真剣にやっていた
⑥ 70年安保は大規模な国民的運動にはならなかった。その後は、専守防衛の枠内なら自衛隊、安保は政治的にオーケーとなり、はっきりこれを主張する憲法学者も現れた
⑦ 立憲主義をないがしろにして違憲状態の固定化を望む護憲派ってあるのか
⑧ 自衛隊を憲法上認知しないまま、侵略されれば、「俺たちを守れ」は許しがたい欺瞞だ
井上教授はさらに論述する。
⑨ もし戦力を保有するなら、その組織編成と行政手続きを憲法に書き、安全保障政策の選択は立法過程で行う
⑩ 9条のおかげで戦後日本は平和国家になったという護憲派の欺瞞を暴く狙いがある
⑪ 日本が侵略されなかったのは、自衛隊と日米安保のおかげだ。その事実を直視しようといない
⑫ 私の憲法9条削除論が過激なら、新9条論です。自衛戦力保有を可能にする憲法を明文改正したうえで行使については、一定の条件つき制約を憲法に明記する。
実に明解な主張だ。法哲学者らしい明敏さで、憲法と安全保障のあるべき方向を示唆している。こじつけ状況論で、神学論争を繰り返す憲法学者が多い中で、日本の安全を見据えて立憲主義を説く。骨太の憲法学の泰斗である。
対談を読んで、井上達夫先生のご著書を是非読まなくてはと思った。
http://mainichi.jp/articles/20160503/ddm/004/070/010000c
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