【以下、平成29年5月19日(金) 衆議院法務委員会議事録つづき】
テロ等準備罪処罰法が成立を仮にしたとして、これだけでテロを未然に防ぐということができるかどうか。もちろん、テロは起こってはならないし、そのために全力を尽くすわけでありますが、しかし、これは相当思い切った覚悟が必要だろうと思います。とりわけ、二〇二〇に東京オリンピック・パラリンピックの開催を迎えているわけでありますから、これを狙ってさまざまな動きが出てくることは当然予想されるわけであります。また、予想しなければならないわけであります。
また、過去には、予想もできないような、思いがけない事態が幾つも起こってきているわけであります。我々は、過去に起こった思いがけない事態を参考にして、日本国民の安全と、そして生命を守っていかなければならないと改めて思うわけであります。
その一つは、一九七〇年代に続発した北朝鮮の日本人拉致事件であります。当時は、まさか隣国が、国家組織としてテロ行為をもって我が国の国民を拉致するなどとは全く考えが及ばなかったわけであります。しかし、たび重なる事象によって、そういった現象が、もしかしたらというところから、確信に変わっていったわけであります。恐らく、一九七〇年代では、今は北朝鮮の拉致事件というのは相手も認めたわけでありますが、しかし、当時としては、本当に予想もできない事態であったと思います。
また、二点目として、一九九四年から一九九五年にかけてのオウム真理教事件であります。宗教団体と称していたカルト集団が、いつの間にか組織的犯罪集団に変身をしていたわけであります。また、最近では、利便性を求めてインターネットが世界じゅうに普及しているわけでありますが、これに対するサイバー攻撃も、この十年、極めて深刻な事態になりつつあるわけであります。
今、誰も想定できない事態が起きたときどう国民の生命と財産を守るか、こういったことについては、このテロ等準備罪処罰法の制定だけではなくて、これから不断の努力をしていく必要があるんだろうと思います。
一つ、二十二年前に起こったオウム真理教事件について少し申し上げたいと思いますが、このときは、本当に地域社会も騒然とした空気でありました。
私は武蔵野市長を務めておりましたが、オウム真理教の犯人たちが浄水場に毒を入れるということが予想され、これに対して全国の水道管理者が、これは大変だ、とりわけ都会周辺の水道管理者は緊張が走ったわけであります。東京都水道局からも指示があり、私どもは、それまで必ずしも予想していなかった浄水場の警備を電光警備にしたり、あるいは夜間、警備会社に頼んでパトロールをしたり、宿直員に泊まり込みをさせたり、こういったことでもって対応をしたわけであります。このオウム真理教が示した事件というのは、国民に重大な心理的影響を与えたわけであります。
とりわけ一九九五年、平成七年の一月の十七日午前五時五十六分には阪神・淡路大震災が発災をして、あのしょうしゃな神戸の町が一瞬にして灰じんに帰したわけでありますから、そのことも含めて、あのときほど国民の心理的な動揺が走ったことはありません。
一九九四年の六月二十七日、松本サリン事件が発生以来、さまざまな積み重ねを経て、地下鉄サリン事件が、一九九五年三月の二十日、霞ケ関地下鉄駅を初めとする複数の駅で起こったわけであります。このときなどは、武蔵野から都心に通学をしている子供たちを休学させる、何があるかわからないから休学をさせる、こういうことも起こったわけであります。まことに深刻な事態でありました。さらに、これはオウムの事件かどうかわかりませんが、一九九五年三月三十日には、オウム警備の最高司令官であった国松警察庁長官の狙撃事件が起こり、国松長官は瀕死の重傷を負ったわけであります。麻原彰晃逮捕の一九九五年の五月の十六日までの間、日本じゅうが震撼をして、さまざまな機関がこの対策に取り組んだわけであります。
当時、自動車ナンバーの自動読み取り装置Nシステムは既にあったわけでありますが、鉄道の改札口にいわゆる監視カメラが設置をされたのはこのことがきっかけであります。それまでは、監視カメラをつけることについては、肖像権とかプライバシー権とかという議論があって、なかなかこれが進まなかったことがあります。
武蔵野市で吉祥寺の駅前にピンクサロンというのがわっとできたときに、このために監視カメラを入れたのは今から四十年前の昭和五十二年でありますが、そのときは、公道上に監視カメラをつくるのは、プライバシーあるいは行動の自由、肖像権の侵害じゃないかという議論もなされました。
その後、私は武蔵野市長になったわけでありますが、風俗環境から静穏な生活を守るためにといって日本弁護士連合会に調査を、いわゆる風俗営業から離れて静穏に暮らす権利というのはどういうことなんだろうかということを日弁連に調査研究を依頼いたしました。日弁連の人権小委員会がこれを受けていただいて、一定の報告を出されたわけでありますが、これなども行動の自由、肖像権などをめぐった議論でございました。しかし、それから十数年たった一九九五年には、今まで考えられないぐらいの監視カメラが鉄道駅の改札口に取りつけられたわけであります。
それは、一連の事件の中から、国民が、これはしようがないんだ、こういうことによって犯罪を防ぐんだ、テロを防ぐんだということに納得したからにほかならないわけであります。監視カメラの効用が広く知れ渡ったのは、IRAの爆弾テロに対する監視カメラの摘発が功を奏したからであります。でありますからして、私が言いたいのは、テロを未然に防ぐ、あるいはそのための対策をとる、あるいは刑事訴訟法のいろいろなことがあるかもわかりません、こういうことを含めて国民の理解と支援がなければならないし、そして、国民とともに歩む法制でなければならない、こんなふうに思っているわけであります。オウム事件の中でもいろいろなことがありました。
例えば、オウム事件の捜査をする検察、警察、一体となった捜査であったわけでありますが、当時は、警察官は二十二万人でありました。そして、それを支えたのが国民の目でありました。オウム犯人の幹部を捕らえるきっかけになったのは、石川県の貸し別荘に怪しげな男女が泊まった、それを住民が通報した、そのことがきっかけになったわけであります。警察は、ありとあらゆる手段を尽くしました。この幹部職員が放置自転車に乗って逃走しようとしたとき、これを職務質問したのが警察官でありますが、その容疑は、占有離脱物横領の容疑でありました。
つまり、国民の声があり、その声に応えた現場の警察官の動きがあり、普通は、自転車泥棒なんて、警察までしょっぴきませんよ。まず事情を聞いておしまいですよ。だけれども、そういうことがあったということが、やはり国民の危機管理、危機意識があったんではないでしょうか。テロの脅威を未然に防ぐために今やるべきことをやる、法制が必要なら法制をきちっとやる、人権や何かに配慮しながらも、やるべきことをきちっとやる、その法制に従って、検察、警察、また関係団体は全力を挙げて治安を守る、こういうことが必要なのではないかと思います。テロの脅威__を未然に防ぐために、TOC条約を締結して、外国の治安、司法当局と情報を速やかに共有していく、こういうことが非常に大事なことではなかろうかと存じます。
さまざまなことがありました。このオウム真理教で示した力というのは、検察、警察だけではなくて、自衛隊の化学防護隊も全面的にバックアップをしました。海上保安庁も、さっき言ったように、水道管理者も、鉄道管理者も、道路管理者も、みんな総力を挙げて、これ以上のテロの拡散を防いだわけであります。
そこで、大臣の決意をお尋ねしたいわけでありますが、法秩序の真ん中にあるのが法務省であり、そして、その法務省を統括し、組織管理し、他の官庁と十分連絡調整を図りながら、日本国民の安全と生命、財産を守っていく使命は法務大臣にあるわけであります。改めて、今までの個別的な、極めて専門的な議論を重ねた上で今日ここに至った、その時点でもって、改めて法務大臣の御決意を承りたいと存じます。
【大臣答弁(中略)】
ありがとうございました。最後に、重ねての要望といたします。
法務省を中心に、検察、警察が治安のかなめでありますが、同時に、水際作戦では海上保安庁、あるいは、ドローン等による仮に犯罪が予想される場合には国土交通省を初め関係局、また、入管と税関の役割も極めて大きいわけでありますから財務省、そしてまた、サイバーテロなどは、総務省のNICTを中心に、サイバー攻撃に対する専門的な知見を蓄積した、また民間の力もかりながら、どうぞひとつ、政府の中にあって総合的に対策をとることを要請し、また、その中心に金田法務大臣がいらっしゃることを大変うれしく思い、これからも引き続き職務を果たしていただきますようにお願いをして、私の質疑といたします。きょうは、どうもありがとうございました。